「日本人は冠詞が苦手」「時制をよく間違える」——英語学習の記事でよく見る話ですが、その多くは講師の経験談か、海外の研究の引用です。実際のところ、日本人が英語を書くとき、どこで・どのくらい間違えているのでしょうか。
この記事では、英語日記アプリLangJournalのAI添削データから、日本語ネイティブのユーザー206人が書いた英語日記1,243件・添削指摘2,068件(2026年5月〜7月)を分類・集計しました。誰かの感覚ではなく、実際に書かれた英語日記への添削だけを根拠にしています。
先に結果を2つだけ言うと——文法ミスの1位は時制でした。そして冠詞のミスは、83%が「aとtheの選び間違い」ではなくそもそも書いていないでした。
なお、集計に使ったのは「どの種類のミスが何回指摘されたか」という統計情報のみで、日記の本文は一切参照・引用していません。記事内の例文はすべて解説用に作成したものです。
集計してわかった全体像: ミスの4分の1は「文法」ですらない
2,068件の指摘を大きく分けると、こうなりました。
| 区分 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 文法ミス(時制・前置詞・冠詞など) | 1,425 | 68.9% |
| 表記・入力ミス(スペル・大文字小文字・句読点・スペース) | 548 | 26.5% |
| 分類外 | 95 | 4.6% |
英語日記の指摘の約4分の1は、文法以前の表記・入力ミスです。文法書を開く前に、書いたあとの見直しだけで削れるミスがこれだけある、ということでもあります。
この記事では本丸の文法ミスをランキングで見たあと、表記ミスにも触れます。
日本人が英語日記で間違える文法ランキング
文法ミス1,425件の内訳です(割合は文法ミス内での比率)。
| 順位 | ミスの種類 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 1 | 動詞の時制 | 259 | 18.2% |
| 2 | 前置詞 | 241 | 16.9% |
| 3 | 冠詞(a / an / the) | 172 | 12.1% |
| 4 | 動詞の形(to不定詞・動名詞・原形) | 166 | 11.6% |
| 5 | 動詞の選択・脱落 | 111 | 7.8% |
| 6 | 代名詞 | 72 | 5.1% |
| 7 | 限定詞(this / some など) | 62 | 4.4% |
| 8 | 主語と動詞の一致(三単現など) | 59 | 4.1% |
| 9 | 句動詞などの前置詞・副詞パーツ | 53 | 3.7% |
| 10 | 形容詞 | 49 | 3.4% |
| 11 | 名詞の語形 | 40 | 2.8% |
| 12 | 名詞の選択 | 35 | 2.5% |
| 13 | 語順 | 33 | 2.3% |
| 14 | 名詞の単複 | 19 | 1.3% |
| 15 | 副詞 | 17 | 1.2% |
| 15 | 接続詞 | 17 | 1.2% |
| - | その他(所有格・比較級の形など) | 20 | 1.4% |
上位5項目(時制、前置詞、冠詞、動詞の形、動詞の選択・脱落)で、文法ミスの3分の2を占めます。日本人の文法ミスは、広く浅くではなく、この5分野に集中して起きています。
1位: 動詞の時制(18.2%)
× Yesterday I go to Shibuya and meet my friend.
→ ○ Yesterday I went to Shibuya and met my friend.
時制が1位に来るのは、日記というジャンルの特性でもあります。日記は「今日あったこと」つまり過去の出来事を書くため、過去形が大量に必要になります。頭では「過去形にする」と分かっていても、文を組み立てている最中に現在形が混ざる——これが最も典型的なパターンです。
2位: 前置詞(16.9%)
前置詞は、後述するように「落とす・間違える・余計に付ける」の3パターンすべてで起きる、守備範囲の広いミスです。
落とす: × I arrived Tokyo at noon. → ○ I arrived in Tokyo at noon.
間違える: × I watched a movie in the weekend. → ○ I watched a movie on the weekend.
余計に付ける: × I went to shopping with my mom. → ○ I went shopping with my mom.
3位: 冠詞(12.1%)
× I bought new bag yesterday.
→ ○ I bought a new bag yesterday.
冠詞は次のセクションで詳しく見ます。この記事で一番お伝えしたい発見が、ここにあるからです。
4位: 動詞の形(11.6%)
× I enjoyed to play tennis with my son.
→ ○ I enjoyed playing tennis with my son.
to不定詞と動名詞の使い分け、動詞の原形が必要な場所での活用形など、「動詞のあとに動詞が続く」場面でのミスがここに集まります。
5位: 動詞の選択・脱落(7.8%)
このカテゴリの約6割は「別の動詞を使うべきだった」という選択のミスです。日本語の発想のまま動詞を直訳すると起きやすく、seeとwatchとlook、sayとtellとspeakのような使い分けが典型です。残りの約4割は、be動詞や助動詞など動詞そのものが文から抜け落ちるミスで、これは次のセクションのテーマにつながります。
冠詞は「間違える」のではなく「落とす」
今回の分類には、同じ種類のミスでも3つの起き方が区別されています。必要なのに書いていない(欠落)、書いたが違う(誤用)、**不要なのに書いた(過剰)**です。
3つの起き方すべてが起こりうる主な文法項目について、内訳を見てみます。
| ミスの種類 | 欠落 | 誤用 | 過剰 |
|---|---|---|---|
| 冠詞 | 83% | 13% | 3% |
| 前置詞 | 46% | 41% | 13% |
| 動詞の選択・脱落 | 38% | 59% | 3% |
| 代名詞 | 29% | 68% | 3% |
| 限定詞 | 16% | 58% | 26% |
※時制やスペルのように、分類の定義上「誤用」しか存在しない項目は除いています。四捨五入のため合計が100%にならない場合があります。
ほとんどの項目は「書いたが違う」誤用が主体です。その中で冠詞だけが、欠落が83%と突出しています。日本人は冠詞をa/theで選び間違えているのではなく、そもそも書いていないのです。
これは考えてみれば自然なことです。日本語には冠詞が存在しないため、「名詞の前に冠詞を置く」という発想自体が、文を組み立てる工程に入っていません。aかtheかで迷う以前に、冠詞を書く工程そのものが抜け落ちる——データはそれを示しています。
対策もこの構造に合わせるべきです。冠詞の用法を細かく暗記するより先に、**「数えられる名詞を単数で書いたら、直前に何か(a / the / my など)を置いたか確認する」**という見直し習慣のほうが、83%を占める欠落ミスには効きます。
前置詞も欠落が46%と高く、同じ構造を一部共有しています。「arrive in」「graduate from」のように、日本語の「〜に着く」「〜を卒業する」には現れない前置詞が、書く工程から抜け落ちるパターンです。
ミスの4分の1を占める、表記・入力ミス
文法の外側にも大きな塊があります。表記・入力ミス548件(全体の26.5%)の内訳です。
| ミスの種類 | 件数 | 全指摘に占める割合 |
|---|---|---|
| スペル | 349 | 16.9% |
| 大文字・小文字などの表記 | 91 | 4.4% |
| 句読点 | 62 | 3.0% |
| スペース | 46 | 2.2% |
単独の項目としては、スペルミスが全指摘の16.9%で、実は時制を上回る最多項目です。
× I recieved a present from my freind.
→ ○ I received a present from my friend.
ただしこれは「英語力の問題」というより「出力の問題」です。receiveやtomorrowのような定番の綴りに加えて、スマホ入力特有のタイプミスも含まれます。文法のように理解し直す必要はなく、書き終えたあとに1回読み返すだけで、この26.5%のかなりの部分は自分で拾えます。
中学で習ったはずのミスと、習っていないのに間違えないミス
ランキングには、考えさせられる非対称性が2つあります。
1つ目。動詞の時制(1位)も、三単現を含む主語と動詞の一致(8位)も、中学英語の範囲です。知識がないから間違えるのではありません。日本語で考えた内容を英語に変換する瞬間に、日本語で明示しない情報が抜け落ちるのです。「知っている」と「書くときに毎回運用できる」の間には、大きな距離があります。
2つ目はさらに意外でした。**名詞の単複は14位・わずか1.3%**です。「日本語にない概念だから間違える」という定番の説明が正しいなら、冠詞と同じように単複も上位に来るはずですが、そうなっていません。
考えられる仮説はこうです。「1冊・2冊」のように、数の区別は日本語話者も概念としては常に持っているため、英語で書くときにも意識に上りやすい。一方、冠詞の定・不定という区別は概念ごと日本語に存在しないため、意識に上る機会すらなく工程から抜け落ちる。同じ「日本語にないもの」でも、概念があって形式がないもの(単複)は書けて、概念ごとないもの(冠詞)は落ちる——今回のデータはその見方と整合します。
なお、"I like dog." のような裸名詞の修正は「冠詞を補う(a dog)」「複数形にする(dogs)」のどちらでも成立する場合があり、冠詞と単複の件数配分は添削側の修正方針にも影響を受けます。ここで示したのは、その前提の上での仮説です。
調査概要と注意点
- 対象データ: LangJournalのAI添削における指摘2,068件(英語日記1,243件、日本語ネイティブユーザー206人、2026年5月13日〜7月25日)
- 分類方法: 文法誤り分類の標準体系ERRANTに準拠し、添削時にAIが分類したタグを集計
- 日本語ネイティブの判定: 母語メモ(日記に日本語の下書き・メモを添えられる任意機能)が日本語であるユーザーを対象としました。任意機能のため、母語メモを使わない学習者はこの集計に含まれません。なお、絞り込みを行わない全学習者(751人・指摘11,290件)の集計でも、上位5項目の顔ぶれは変わりません
- 日記の長さ: 平均32.7語。指摘は日記1件あたり平均1.66件(100語あたり約5件)で、添削AIに指摘件数の上限は設けていません。一方で、平均32.7語という短さのため関係詞や複文などの複雑な構文が出現しにくく、語順(2.3%)や接続詞(1.2%)などの長文で生じやすいミスは、実際より少なく出ている可能性があります
- 限界: スペルにはタイプミスを含みます。分布はAIが検出・指摘しやすいミスに偏る可能性があります。また今回の集計は約3ヶ月分のデータであり、母数は今後の集計で拡大していく予定です
- プライバシー: 集計に使用したのは統計情報のみで、日記の本文は参照・引用していません。例文はすべて解説用に作成したものです。統計情報の取り扱いについてはプライバシーポリシーをご覧ください
まとめ: あなたのミスにも、必ずパターンがある
2,068件の指摘が示したのは、日本人のミスがランダムではないということです。4分の1は見直しで消せる表記ミスで、文法ミスは5分野に集中し、冠詞は「落ちる」。
そしてこれは、あなたの英語にも同じことが言えます。自分がどのパターンでつまずいているかが分かれば、対策は絞れます。日記を書いて添削を受けることは、その「自分のパターン」を見つける最短の方法です。
——ところで、「同じ人は同じミスを繰り返すのか?」が気になった方もいるはずです。実はここには、今回のランキング以上に意外な傾向がありました。それは次の記事で、データとともに紹介する予定です。
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